大学チャンネル.com » 2013年12月1日アップ » 第3回 プロジェクトの具体的な取り組み内容(完結編)

コラム

藤岡慎二の先端社会に挑む辺境から見つめる希望の国

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第3回 プロジェクトの具体的な取り組み内容(完結編)

隠岐島前高校魅力化プロジェクトの事例

 前回に引き続き、隠岐島前(どうぜん)高校魅力化プロジェクトの具体的な取り組みをお伝えし、併せて、その成果の一端をお知らせしたい。

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一人一人の力を伸ばす 教育環境の整備

 今までは、「島にいると、学力が伸びず大学進学に不利」という“常識”が根深くあり、大学進学を希望する多くの生徒は、中学卒業時に島を離れ「本土」の高校へと出て行っていた。こうした状況を打破し、離島であっても学力が伸び、島外に出なくても、国公立大学や難関大学などへの進学希望を実現できる教育環境づくりを進める必要があった。
 そこで、今まで弱みだと見られてきた「小規模」ということを、「一人一人に手厚い指導が可能な少人数制という“強み”」と捉え、超少人数指導と充実した個別指導で一人一人の学力を最大限に伸ばし、夢に向けた進路の実現を目指す、地域-高校連携型公営塾「隠岐國学習センター」を設立。一人一人に応じて学力と人間力を伸ばすプログラムを進めている。地域の大人も巻き込んだゼミ形式で、各自の興味や問題意識から生まれた課題に取り組む「夢ゼミ」では、必要に応じてスカイプやユーストリームなどのICTも利用し、地理的ハンディキャップを克服しながら、全国のプロフェッショナルとの対話の場や東京の高校生との議論の場もつくっている。
 また、隠岐國学習センターは週1回、高校の進路指導部や各学年の担任、教科担当などと会を持ち、進路の方向性や指導方針等をすり合わせながら、高校と連携して指導に当たっている。これは高校での「夢探究」や「生活ビジネス」などのキャリア教育的授業にも外部講師として授業に入るなど、今までの学校と塾の関係を超えた協働体制で運営されている。

全国から意欲ある生徒を募集

 島内の中学生とその保護者へのアンケートとヒアリングの結果、島の高校には「刺激・競争がない」「多様な価値観との出会いがない」「新しい人間関係をつくる機会がない」といった不満の声が多くあることがわかった。
 島の少数の生徒だけでは、生まれや育ちが似た均質化集団になるため、狭い人間関係の中で関係性は固定化・序列化し、価値観も同質化しやすい。また、多感で価値観の広がりを見せる高校時代に、島内の30人にも満たない生徒だけで、クラス替えもないような高校では、刺激や競争も少なく、社会に出てから重要になる多様な人たちと人間関係をつくっていく力やコミュニケーション能力も育ちにくい。そういった不安が保護者や中学生の中にあったのである。固定化された狭い人間関係に閉塞感を感じ、刺激や多様な価値観、新しい人間関係を求めて外へ出ていくというのは、多くの地方の若者が都市部へ流出していった理由と共通しているようだった。
 そこで、全国から意欲・能力の高い入学生を受け入れる「島留学」を開始した。この島留学は、「誰でもいいから、島の高校に来てくれませんか?」と呼びかけ、単に生徒数を確保しようとするものではない。一番のねらいは、異文化や多様性を学校内に取り込み、地元生徒への刺激と高校の活性化を図ることである。そのため、この島留学は、島の子どもたちや学校、地域に良い刺激をもたらしてくれる意欲と力のある生徒を対象としており、意欲や能力面で条件を越える島留学生には、町から入寮費の全額、寮費・食費の半額(毎月2万円)、里帰り交通費の半額等の補助をする島留学支援制度を設けている。
 広く全国から来た意欲的で多彩な生徒たちと島の子どもが高校生活を共にすることで、新たな人間関係を構築し、多様な価値観やものの見方を発見し合える環境をつくること、またお互いに刺激を与え合い切磋琢磨することで、学力や生きる力を相互に伸ばし合うことをねらいとしたこの島留学によって、変化の兆しがいくつか見え始めている。
 例えば、大阪の進学校から島前高校に来た生徒は、島内で常に成績が一番だった地元の生徒よりも上の成績をとった。テストで負けたことが、島のその生徒の心に火をつけ、2人は良い意味でのライバルとして、学力を高め合った。彼らの勢いは、学級全体の雰囲気を変え、他の生徒の学力も伸び、結果としてこの学年は3割が国公立大学に合格するという島前高校では異例の進学実績になった。
 また、全国の高校生が地元の観光プランを作成し競い合う「観光甲子園」に島前高校が挑戦したときにも島留学の効果は見てとれた。「島の魅力を再発見して、新しい観光企画を考えよう」と観光プランづくりを始めたものの、地元の生徒たちにとっては地域資源の発掘や独自の切り口がなかなか打ち出せず苦しんでいた。そこに島外から来た生徒が入ったことによって、島の生徒たちにとっては当たり前になってしまい気づけないものに、“ソト”の目が次々とスポットライトを当てていく。異なる視点からの気づきは、島の生徒たちが地元の魅力を再発見することを後押ししてくれた。そうした“ウチ”と“ソト”の相互作用の結果、彼らが行き着いた結論は、「この島の一番の魅力は“人”だ。そして“人とのつながり”だ!」「自然が少ない都会の人に、自然を楽しむ“自然体験”ツアーが人気になっているように、人とのつながりが希薄化している都会の人には、自然体験ならぬ、“人間体験”をするツアーも受けるはず」。
 ということで、彼らは地域の“人と人とのつながり”を観光資源ととらえ、「島の人間力にあふれる人たちと出会い、交流し、人とのつながりをお土産に持って帰る」観光プラン『ヒトツナギ』をつくりあげ、第1回観光甲子園において見事グランプリ(文部科学大臣賞)に輝いた。

 島内出身の女子生徒は、観光甲子園のステージの上で「ずっと島で生まれ育った私は、最近まで島の魅力なんてわかりませんでした。ただ、本土から来た生徒が、『島前っていいね〜』と感動しているのを見て、島を見る目が変わりました。この感覚をもっと多くの島の子たちに伝えたいと思いこのプランをつくりました」と語った。
 その想い通り、この観光プラン『ヒトツナギ』は、島外の中高生に加え、島内の中高生を参加対象者としており、その“ソト”と“ウチ”の若者がペアになって島の“人”という魅力を堪能する旅の企画となっていた。ちなみに、その後この企画を考えた彼らは、地域の人たちを巻き込んで、全国から参加者も集め、この『ヒトツナギ』のツアーを本当に実現化させている。
 このツアーは毎年続き、今では地域内にこれに類するツアーや、人にフォーカスした海士町のガイドブック『海士人』(英治出版刊)なども生まれている。これらは、島留学なしには起こり得なかったであろう。

プロフィール
藤岡 慎二(ふじおか・しんじ)
(株)GGC代表取締役。1975年生まれ。
慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科修了。全国の教育機関で講義を行い、教育のシステム開発にも参画。行政と恊働して教育を通じた地域活性化にも取り組んでいる。島根県立隠岐島前高校魅力化プロジェクト教育ディレクター。