大学チャンネル.com » 2013年9月1日アップ » 第2 回 “プレゼン”のいろいろ

コラム

宮地勘司の表す伝えるプレゼンテーション入門

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第2 回 “プレゼン”のいろいろ

達人たちのプレゼンテーション

 皆さんは、心に残るようなプレゼンテーション(以下“プレゼン”と略)を見たことがありますか? 語り手のメッセージがググッと心に突き刺さり、それ以後の考え方や、もしかしたら生き方にまで影響を与えてしまうような、そんな“プレゼン”に出会ったことはありますか?
 現代の“プレゼン”の名手と言えば、今は亡きスティーブ・ジョブズでしょう。黒いハイネックにジーンズという独特のスタイルでステージに現われ、アップルの新製品を片手にプレゼンする彼の姿は世界中のアップルファンを熱狂させました。極限まで無駄を省いたシンプルなスライド、その美しさと伝えられるメッセージの力強さ、心に響く物語とユーモア、そして十分に仕込まれたサプライズ。洗練された彼の手法や考え方は、その後の世界中のプレゼンに多くの影響を与えました。
 そして、数ある彼の“プレゼン”の中でも2005年にスタンフォード大学の卒業式で行ったスピーチは、「伝説のスピーチ」として人々の記憶に深く刻み込まれました。それは、スライドを一切使わず、ステージ上を歩き回ることもなく、演台にすっくと立ち、自らの人生を通して得た気づきをこれから社会に出る大学生たちに伝えたものです。
 人生の不思議な因果、愛、そして死について。独自の視点から語られた10数分間のスピーチは、その場にいた多くの大学生を魅了し、最後は次の言葉で締めくくられました。
̶ Stay Hungry, Stay Foolish. ̶「常に渇望し求めよ! そして無邪気に挑戦せよ!」私はそう訳しています。
 このように、スピーチも立派な“プレゼン”の一つの形です。というよりも、パワーポイントなどのソフトウエアが世に出る以前は、“プレゼン”といえばスピーチでした。つまり、スライドの力に頼らずに「話の力」だけで相手の心を動かすのです。
 歴史上最も有名なスピーチの一つに、マーティン・ルーサー・キング牧師が1963年に行った「I Have a Dream」があります。人類の平等と人種差別の撤廃を訴えたこのスピーチを聞くために、何と20万人(東京ドームの第2 回 “プレゼン”のいろいろ席数は約5万ですが、彼一人のスピーチを聞くために、何とその4倍)もの人が集まったのです。そして、これをきっかけに世論が高まり、建国以来200年近くも続いた米国の人種差別政策に終止符が打たれました。まさに「話の力」が社会を動かしたのです。
 また、若い人では、1992年にリオデジャネイロで開催された環境サミットでのセヴァン・スズキ(当時12歳)のスピーチが有名です。彼女は、環境団体の代表として、子どもならではの視点から世界中の人々にこう訴えました。「大人の皆さん、どうやって直すのかわからないもの(地球のこと)を、壊し続けるのはもうやめてください」。その純粋で真摯な“プレゼン”は満場の喝采を浴びました。
 さて、ここで紹介した“プレゼン”をはじめ、今ではたくさんの素晴らしいプレゼンをインターネット上で簡単に見ることができます。
 TED(http://www.ted.com)というサイトを皆さんはご存知ですか?TEDは「Technology EntertainmentDesign」の頭文字に由来し、「“広める価値のあるアイデア”を世界中で共有しよう」と、米国で始まった活動です。U2のボノ、Googleの創業者、ビル・クリントン元大統領など多くの世界的な有名人のほかにも、ピアノを弾きながらクラッシックの魅力を歌うように語る音楽家、本物の人間の脳を片手に持って脳と世界の関係を雄弁に語る脳科学者など、TEDのサイトには、それぞれスタイルも多様で、語られる内容も深く、インスピレーションに富んだ“プレゼン”が1,000以上もアップされています。日本語の字幕がついたものや日本語で読めるものもあるので、ぜひ、のぞいてみてください。きっと、皆さんの心に届く“プレゼン”に出会えると思います。

プレゼンテーションを
成功させるために

 素晴らしい“プレゼン”を行う達人たちも最初からそうだったわけではありません。さまざまな試行錯誤の末、自分なりの表現スタイルにたどりついたのです。皆さんも、これからどんどん“プレゼン”の機会が増えていくと思います。少しでもよいプレゼンができるように、以下に4つのポイントを挙げますので、参考にしてください。

1.前提を十分に確認する
 まず、だれに対して、何のために“プレゼン”を行うのか、これが大事です。相手はどのような考えを持った人で、なぜあなたのプレゼンを聞くのか。その“プレゼン”にどんな期待を持っているのか、あるいは持っていないのか。また、聴衆の数によっても話し方は変わります。会場の様子や機材の状態、持ち時間など、事前にできる限りのことを確認しておきましょう。

2.明確なゴールイメージを持つ
 あなたの“プレゼン”が終わった時、相手にどのような状態になっていてほしいですか? どんな気持ちになってほしいか、どんな行動を起こしてほしいか、明確に、具体的に描けば描くほど、“プレゼン”の成功率はアップします。

3.本当に伝えたいことを考え抜く
 あなたがこの“プレゼン”を通して最も伝えたいことは何ですか? 一つの答えが出てきたら、“プレゼン”をつくるプロセスの中で何度も自分に問い直してください。「本当にそうなのか」と。そして少しでも違和感があれば、修正することを厭いとわないでください。あなたが伝えたくもないことを聞かせるために、多くの人の時間とエネルギーを無駄に費やすことになってはいけません。本当に伝える価値があることをしっかりとつかみ、それをさらに磨き抜いてください。

4.準備を怠らない
 ジョブズは5分の“プレゼン”のために数百時間を費やしたと言われています。まさに事前の準備段階から勝負をかけているのです。聞き手の立場になって、どうしたら最も伝わるのかよく考える、必要なデータや資料を粘り強く集める、論理的に破綻していないか入念にチェックする、そして最も大切なことは十分な練習時間を確保すること。練習に勝るものなしです。
今回は、いろいろな“プレゼン”の事例と、実際に“プレゼン”を行う際のポイントを紹介しました。次回は、“プレゼン”に真剣に取り組むことで、あなたにどんな変化が起きるかについて伝えます。

プロフィール
宮地勘司(みやじ・かんじ)
(株)教育と探求社代表取締役社長。全国で1 万人の中高生が学校の授業の中で実在の企業や人物を題材に「生きる力」を学ぶプログラム「クエストエデュケーション」を提供し、その1 年間の取り組みの成果発表を行う「クエストカップ」を主催。法政大学キャリアデザイン学部で講師を務める。 (株)教育と探求社ホームページ http://www.eduq.jp/